またついつい久しぶりの投稿になってしまいました。
夏は湿度が高くてジメジメして嫌ですね。
ピアノリフィニッシュでは古いピアノやビンテージギターの塗装など、良い意味での古さを損なわないように全塗装してほしいという依頼もあり、ラッカーを使うことが多くあります。
湿度は塗装に大きな影響があって、特にラッカー塗装をするときはかなり強い影響を受けるのであまり湿度の高い時は塗れません。
必然的に塗装する時の湿度(特に梅雨から夏の時期)には敏感になってるんですが、ここ何年か極端に湿度が上がってる気がします。
以前は雨の日(雨が降っている時とその後しばらく)を避ければラッカー塗装にも問題なかったのですが、晴れていても湿度の高すぎて塗装に影響が出る日が多くなってきました。
塗装の希釈率やシンナーの揮発速度の調整がだいぶシビアになってきてます。
劣化したラッカー塗装
このピアノパーツはお客様からお預かりしているYAMAHA W102 というモデル
塗装の仕上げはYAMAHAの言い方でいうところのナチュラル半艶仕上げ
つまりラッカーのヘアライン仕上げです(ヘアライン仕上げの解説はこちら)
修理前の状態
長年の紫外線や汚れなどの影響で表面のラッカー塗膜が劣化して溶けまくっています。
鍵盤蓋の内側の状態
鍵盤蓋の内側はキズはたくさんありますが、比較的に塗膜はしっかりしていますね。紫外線にさらされることも少なくて触る頻度も少なかった証拠ですね。
内側は再塗装せずクリーニングで綺麗にします。(古い楽器は安易に無駄に塗り替えないのも重要です)
劣化した塗装はどうしたら良いか
劣化してくると塗装の表面が溶けてベタベタしてきたり、表面がガサガサになってきて曇ったような感じになり艶がなくなってきてしまいます。
表面が溶け始めていて肌荒を起こしてる塗膜は水分や油分が染み込むようになってしまっていて、それらがラッカーと反応して白く濁ってしまったり、艶が引けてしまったり、さらに劣化が進む原因にもなります。
ピアノクリーナーなどもNGですし、ピアノ用のシリコン艶出し材(ユニコンとかシャイミーとかシリコンワックス系とかその類です)も完全にNGです。
劣化が進んだ塗膜を艶出し材などで磨くとその時はギラッとツヤが出るので一瞬磨けたかのように錯覚しますが油分が染み込んでテカテカになってるだけで、、、しかもそのせいでさらに劣化を早めます。
実際コレやってるピアノ屋(調律師さんも)多いでしょ?やめた方がいいですよー。
(調律師さんの中にはシリコンスプレーを吹きかけて磨くなんて人もいますけど、それも絶対にやめてくださいね。)
コンパウンドで磨くのもダメ、艶出し材とかクリーナーもダメ、水拭きもダメ
じゃあ劣化した塗装はどうしたら良いかって言うと、正直なところ
「どうしようもありません」
残念ながらそっとしておくか、劣化した塗装を剥がして塗り替えるしかないわけです。
古いラッカーを剥離して再塗装
劣化してしまっている部分は仕方ないので全て剥離して再塗装です。
下地の段階で色を合わせて(今回の塗装は一部のパーツだけなので塗らない部分と違和感が出ないように中間的な色合いに)
上塗りが十分乾いたら平らに研ぎ出して、ヘアラインを入れて完成。
ヘアライン仕上げはこんな感じになります
あとはお届け時に空磨きをして周りと艶を馴染ませればバッチリです。
ラッカー塗料について
ここで言っているラッカー塗料はニトロセルロースラッカー(硝化綿ラッカー)と言われるもので昔ながらのシンプルな塗料。
しっかりとした塗膜を作るには何度も塗り重ねなければなりませんし、耐久性も現代の塗料と比べて低いので、作業効率(少ない回数で十分な厚みの塗膜が作れる)や発色や耐候性(キズつきにくいとか艶が長持ちするなどの耐久性も)を高めるために → アクリルラッカー → ウレタン、ポリエステルなどと進化してきましたがニトロセルロースラッカーが全てで劣ってるという訳じゃありません。
それでしか出せない自然な風合いがありますし、触り心地や質感もぜんぜん違います。
ビンテージギターやアンティークなピアノなどオリジナル感を損なわず、音への影響もふまえてラッカー塗装をするべきシーンはたくさんあります。
せっかくの楽器にウレタンやポリ塗装をして野暮ったく台無しにしてしまうのはもったいない。
(楽器の塗装が音に影響するか問題は賛否両論ありますが、自分の考えは「よく議論されているような単純な考え方でいうと 影響しない、でも深く細かく突き詰めるなら影響ある」です。一周回って。)
ちなみに当然ウレタンやポリエステルにもそれでしか出せない雰囲気もあるわけです。
適材適所、必要に応じて使い分けられるのがベストということですね。