前回と引き続きラッカーの劣化による再塗装です
KAISER上前板再塗装
こちらはKAISER(カイザー: YAMAHAが製造してKAWAIが販売したという)のアップライトの上前板
艶がなく汚れているので磨いたら白く濁ってしまったとご相談をいただき、早速状態を見に行ってみるとこんな状態でした。(写真は工房に持ち帰って撮影)
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これも劣化したラッカーの症状です。
コンパウンドで磨いたら白くなったという事でしたが、磨いたからダメになった訳じゃなく、元々ダメになっていたところが目立つようになってしまった状態。
こうなってしまうと塗り直すしかないですね。と説明しまして、お預かりしました。
作業前はこんな感じ↓
ダメになっている塗装を剥離してラッカーで塗り直します。
普通ならポリで塗ってしまうところですが、お客様のご希望でオリジナルの通りラッカーで塗装することにしました。
今回は上塗りのラッカーだけを剥離(下地はそのまま生かすことに)
ただそれでもある程度色がなくなって薄くなってしまいます。
なのでまずは少しずつ少しずつ色合わせをして、元の色に戻していきます
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木目の塗装は簡単じゃない
木目の塗装はシースルーなので色だけじゃなく濁り(木目の透け感)まで合わせていかなければなりません。一部のパーツだけを塗り替えるのは他と色を合わせるのがとても難しいです。
基準とか参考データは物は何もなく、どんな着色剤を使っているのかもわからないし、しかも何十年と経っている物がほとんどなので変色していたりもする。
それを違和感がないように塗るわけです。これがまた難しい、、完璧にはどうしても出来ません。
未だに毎回悩みながらやっています。
実際、納得がいかなくて何度も塗装を剥がして塗り直すこともあります。
そしてなんとか色が許容範囲になったら最後はクリアーを何度か塗ります。
鏡面塗装仕上げにするために塗装を平らに研磨するのでそのために余分に塗っておくわけです。
ラッカーの塗り肌
ニトロセルロースラッカーの場合、アクリルラッカーやウレタンなどと違って綺麗な塗り肌は出にくいので塗装が終わった時の肌はこんな感じ。結構デコボコです
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しっかり乾燥させて仕上げに入ります
と言っても平らに研磨して磨くだけですが。
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![](https://pianotosou.com/wp-content/uploads/2022/07/F3F2E679-E0F2-4472-9B48-C5109848A5B2-600x450.jpeg)
仕上がりはこんな感じ↓
望み通りのラッカー塗装で綺麗に復活して、お客さまもとても喜んでくださいました。
写真だとわかりにくいですが、ラッカー塗装はウレタンやポリエステルと違い温かみというかしっとり感というかとても良い雰囲気があります。
なんでも簡単な塗り方で早く安く塗れば良いというものじゃないですね。必要に応じて適した塗装をするのが大事です。
ピアノ塗装について前から気になっていること
他の塗装業者のホームページなどを見ると、『ピアノ塗装とはウレタンやポリで塗装するもの』とか『ピアノ塗装の平滑な仕上げをするには大型の機械が必要』とか説明されていたりするんですが、うちは大型のベルトサンダーもレベルサンダーもありません。
ハンドツールのサンダーでもそこそこレベルの高い平滑面は出せますし、ラッカー塗装でも普通に鏡面塗装仕上げはできますよ。どういうことでしょうか?
残念ながら、ピアノのメッカ浜松などのピアノ業界でも腕のたつベテランの職人さんはもう全然いないという事でしょう。(実は前から知っていますが)
大型の機械を使った研磨ならちょっと経験を積んだパートタイムな人でもできます。
ただこれだとラッカー塗装では難しい。(厚塗り出来ないので)
塗装職人さんも同じく
誰でも出来るそこそこの技術でとりあえず分厚く塗る、そしてそれをパートタイムな感じの人が大型機械で大雑把に削る(分厚く塗っているのでこれでも失敗はしません。)そしてただひたすら磨く。
これをやるためには確かにウレタンかポリじゃなきゃ難しいでしょう。(塗膜を厚くしておかなきゃいけないので)
だから『ピアノ塗装とは、ウレタンやポリで』と言っている訳です
ラッカー(特にニトロセルロース)ではそこまでの塗膜を作るのは難しい、というか出来なくはないですが効率が悪すぎます。
ピアノバブルと言われた時代、薄利多売で大量生産に特化したビジネスをやってきたツケが回ってきている感じですね。
ラッカーに限らず、必要最低限の塗装をして必要最低限の研磨で仕上げる。
普通はそれが一番だと思いませんか?ピアノは楽器ですからね。(場合によって厚塗りが必要な時もあるでしょう)
ピアノ塗装が上手にできて、尚且つさらに技術を発展させようとしているよその塗装屋に25年以上一度も出会ったことがありません。
もしいるなら、ぜひ話がしたいです。
まだ技術はないけど本気でこれからそうなろうとしてる人も同じです。
そんな人と繋がりたいですね。
本気の塗装トークができる人。募集中です。笑